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0089 過酸化水素

 小中学校の理科では酸素を発生する実験でおなじみの過酸化水素。  CAS No.7722-84-1

 化学式はH2O2です。水H2Oに比べると、酸素原子が1個多いですね。だから「過」酸化水素なのです。もっというと水は「酸化水素」といえなくもないのですが、「水」の方が有名ですよね。

分解して酸素ができる

 そして水が安定なのに対し、過酸化水素は不安定。だからきっかけがあれば水になろうとするのです。
 そしてそのきっかけというのが二酸化マンガンだったり加熱だったり、レバーだったりするのです。
2H2O2→2H2O+O2
 水のついでに酸素ができるわけですね。

 で、この酸素を発生する実験ですが、2~3%の濃度の過酸化水素水であるオキシドールを使うことも多いです。この濃度だと劇物にならないので、薬局で第3類医薬品として普通に買えるのも魅力的です。

6%を超えると劇物扱い

 しかし、過酸化水素濃度が6%を超えると劇物扱いになります。(毒物及び劇物指定令第二条十九 )

毒物及び劇物指定令(昭和四十年一月四日政令第二号)
第二条(劇物)  法別表第二第九十四号の規定に基づき、次に掲げる物を劇物に指定する。ただし、毒物であるものを除く。
十九  過酸化水素を含有する製剤。ただし、過酸化水素六%以下を含有するものを除く。

 学校で過酸化水素を注文すると、普通、30%の濃度の試薬が届きます。当然、医薬用外劇物ということになります。

蓋にも工夫が

 昭和化学の容器のふたは発生した酸素が容器から逃げられるように穴が開いています(このため、長期保存すると過酸化水素の濃度が下がっていきます)

 国産化学の方はふたに穴が開いていません。ただ、ふたの内側を見るとなんか仕掛けがあるようにもみえます。

試薬にしては案外安い

 そしてこの30%過酸化水素水(一級)の価格は500mLでナカライテスクなら950円和光純薬工業で950円キシダ化学で1000円と1000円程度です。
 教材屋さんを経由すると1500円だとか1800円だとかになるけれど2000円は超えません。10倍に薄めてオキシドール5リットル分と考えると、薬局でオキシドールを買う(100mLで100円前後)よりも割安ということになります(それだけの量を使うならば、という話ですが)。

オキシドールを濃縮する人も

 ちなみに一部ケミカルマニアの方々の間で、オキシドールを濃縮して30%にしている実験などがyoutube方面に上げられているようです。結構危険で面倒な操作を経て濃縮した30%過酸化水素を何に使うのかは知りませんが、一方私はそんな人たちがそこまで手をかけて作っている30%の過酸化水素を電話1本で簡単に購入し、 あまつさえ水でオキシドール程度に薄めて実験に使っているのでした。
 ホリエモンの『拝金』にでてきた上場記念パーティで超高級なボルドー5大シャトーワインを混ぜて(まずくして)飲むというシーンと、40年前のビンテージカーであるアルファロメオ(イタリア車)を痛車にした事例(リンク)を彷彿させる何かを感じます。

高濃度の過酸化水素

 さて、ここからは工業的な話。工業関係者の間では、過酸化水素を「過水」と略して呼んでいるそうです。

 50%以上になると、常温で酸素と水に分解し、爆発性ももちます。

 60%は紙・パルプ、工業薬品などの工場でよく使われます。例えば古紙の漂白は塩素漂白だとダイオキシンなどといろいろうるさいのですが、過水なら分解しても水と酸素しか残さないのでクリーンなのです。とはいえ、ポンプの鉄さびなどと反応して60%の過酸化水素が急激に分解反応して爆発した事故がおきていますから、侮ってはいけません。

 60%を超えると、国連の危険物輸送の規定が厳しくなってきます。

 66%以上のものは爆発性がある。 加温や光の影響により分解し、酸素を生じて火災の危険性を増大させる、 …などとSDSには書かれています。

 さらに、90%過酸化水素水というものがあり、事故も起きています。

過酸化水素にまつわる事故

 ところで過酸化水素の事故といえば忘れてはいけないのが平成11年10月29日に起こった首都高速2号線におけるタンクローリー爆発事故ですが、かなりの惨状だったようです。これでよく死者が出なかったなと思います。

この原因をさらに調べた熊崎美枝子「過酸化水素の反応における誘導期の検討」,労働安全衛生総合研究所特別研究報告,34,pp.11-16,2006によると、一応は過酸化水素がタンクの中の塩化鉄や塩化銅と分解反応を起こさないか確認したけれど、誘導期(反応物を接触させても反応が殆ど進行しない期間)により危険性を見逃して、大量の過酸化水素をタンクに入れて運んでしまったという話です。

 余談ですが、タンクローリーの使用者は「日本電酸工業株式会社」(本社・東京都千代田区岩本町)。この会社名でググると、1960年代にあのサンポールを開発したが1990年に経営不振に陥り、金鳥こと大日本除虫菊に吸収されたサンポール株式会社の旧社名も「日本電酸工業株式会社」であったことがわかります。足立区にあったらしいが、これは何か関係があるのでしょうか?
いろいろ謎は深まるのでした。


Check it out!
少し古い論文ですが…
工藤一郎「過酸化水素(H2O2)」化学教育 16(1), 69-73, 1968-03-20 pdf
柿田公太郎「過酸化水素の危険性」安全工学,Vol.9,No.6,pp.360-367,1970

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