PR

0116 【水溶液4】水溶液から溶質を取り出す(理論編)

 さて、前回の実験でとにもかくにも硝酸カリウムと食塩(塩化ナトリウム)の水溶液からそれぞれの溶質を結晶として取り出すことができたわけですが、何が起こったのでしょうか。

 

 物質が水に溶ける量は限度があります。100gの水に溶けることのできる溶質の質量溶解度といいます。溶解度に達してこれ以上溶けなくなった状態を飽和、そのような水溶液を飽和水溶液といいます。
 溶解度って100gの水の溶ける溶質の質量だから、その単位はg/100g ということで無名数になります。ちなみにパーセントというのも単位ではなく無名数扱いと承知しております。
 ただし、「100gの水の溶ける溶質の質量」と説明すると、質量ならば単位はgだな、と誤解されがちです。かといってパーセント濃度のように割合的な話にもっていくのも、生徒はかえって混乱し、本質を見失ってしまいそうです。
 以前K社の教科書に「水100gに物質を溶かして飽和水溶液にしたとき、溶けた溶質の質量[g]の値をその物質の溶解度という。」と説明をみて、やるなぁK林館、と思ったことがあります。

 溶解度は物質によって異なりますが、同じ物質でも水の温度によって異なります。そこで縦軸を溶解度、横軸を水の温度として、水の温度による物質ごとの溶解度の変化をグラフに表したものを溶解度曲線といいます。

この溶解度曲線を見ますと、硝酸カリウムは冷たい水だとあまり溶けませんが、水温が上がってくるにつれ、溶解度が増えてきます。逆に言うと、熱いお湯にたくさん硝酸カリウムを溶かすことができますが、それが冷えると溶けきれなくなることがあります。そうして水溶液から追い出された硝酸カリウムは結晶として現れることになります。
 このように、固体(結晶)を一度水に溶かして、再び結晶として取り出す操作を再結晶といいます。
 結晶は純粋な物質なので、少量の不純物が混じっている物質を水に溶かして再結晶させることにより、不純物を取り除くことができるのです。

 なお、塩化ナトリウムはお湯に溶かしてから冷やして取り出す方法は向きません。温度による溶解度の変化がほとんどないためです。
 このような物質の水溶液から結晶を取り出すには、水を蒸発させる方法があります。水溶液から水がなくなれば、溶けているものが残りますね。もっとも、溶質が液体や気体だったらどっか行っちゃいますが、固体なら結晶が残ってくれます。この方法を蒸発乾固といいます。

※正確には「再結晶」は文字通り、「(水に溶けた物質が)結晶になること」ですので例えば蒸発乾固も再結晶の一種なのです。しかし、参考書や問題集などを見てみると、蒸発乾固は「再結晶」に含まれるという扱いではなく、温度による溶解度の差で結晶を取り出す方法が再結晶、水を蒸発させて結晶を取り出す方法を蒸発乾固と完全に別物扱いにしていると思われる表記をよく見かけます。
 結晶をお湯に溶かしてから冷やして再び結晶を取り出す方法(この意味で「再結晶」という言葉がつかえないとこう表現せざるを得ません。狭義の再結晶なら使えるかな?)は物質の分離の手段となり得ますが、蒸発乾固では不純物も一緒に残ってしまいますから分離の手段となりません。この辺りも「再結晶」という言葉が「蒸発乾固」を含まず、温度による溶解度の差で結晶を取り出す方法のみを「再結晶」といっている一因ではないかと思います。

 先ほどの実験で試験管A、Bの様子が違ったのは硝酸カリウムと塩化ナトリウムのこのような溶解度の違いからだったのですね。

結論:水溶液から溶質を取り出すには、水溶液を冷やしたり、水を蒸発させたりすればよいか。

 ここからは、このの実験について、硝酸カリウムを例に溶解度曲線のグラフを用いてもう少し定量的に考えてみましょう。

 溶解度は100gの水で、溶質の溶ける質量を表示しています。前回の実験では5gの水に3gの硝酸カリウムを加えましたから、この割合を水100gになおすと、
  水:溶質=5g:3g=100g:60g
ということで溶質60g分に相当します。

 ここからは水100gに硝酸カリウムを60g加えたケースを考えます。

 では、室温、たとえば20℃の水100gに60gの硝酸カリウムは溶けきれるでしょうか。溶解度曲線を見てみましょう。

 20℃の溶解度を調べてみると、硝酸カリウムは31.6です。
 これは20度の100gの水に硝酸カリウムは31.6gまで溶けますよという、溶けていい「枠」の意味です。
 ということで、20℃のところに31.6g分の「枠」をかき加えてみました。

 そして、実際には60gを加えています。これは溶解度がいくらだろうと無関係な話です。だって実際に加えちゃったんだもん。
 ということで、20℃のところに今度は60g分の塗りつぶした棒グラフをかき加えてみました。
 当然、「枠」からはみ出ます。その枠に入れなかった分は溶け残ってしまうのです。

 ここまでの説明でピンとこなかった人は、バケツと水でイメージしてみましょう。
 溶解度はバケツの大きさ(容量)、加えた硝酸カリウムは水のイメージです。
 容量31.6Lのバケツに60Lの水を入れようとしても、全部は入らず、無理やり流し込もうとしてもこぼれてしまうだけです。つまり、これが溶質は溶けきれない、ということです。

 では、この水を60℃に温めてみました。するとどうなるでしょうか。
 60℃での溶解度は109.2ですから、60℃のところに109.2g分の「枠」をかき加えてみました。さらに、加えた60gを60℃のところにも塗りつぶした棒グラフをかき加えてみました。温度を変えただけなので、加えた硝酸カリウムの量は変わりませんね。

 今度は20℃のときとちがって、枠に60g全部収まってしまいました。つまり全部溶けきったというわけです。バケツの容量が109.2Lになったのですから、60Lの水はこぼれずに全部バケツに収まったとイメージしてください。

 このあと、水で冷やして20℃に戻しました。どうなるでしょうか。
 また、加えた量が変わらずに、枠だけ元に戻りました。そうすると溶けなくなった分が出てきます。ちなみに、その量も計算できますね。60-31.6=28.4gです。

 109.2L入るバケツに入っていた60Lの水を、31.6Lしか入らないバケツに流し込もうとしました。何Lこぼれたでしょうか。とイメージしてもらえるとわかるのではないかと思います。

 そしてこれが再結晶ってやつですね。

 溶解度の計算に当たって持っておくとわかりやすくなるイメージを次のように整理しておくといいですね

溶解度…バケツの容量
実際に溶かす溶質の量…水の量
溶けきれない溶質の量(温度を下げて溶けきれずに出てくる結晶の量)…バケツからこぼれた水の量

 イメージがつかめれば、計算自体は単なる引き算です。そこは密度や質量パーセント濃度のような割合がらみの計算と違うところですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました