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0117 塩化ナトリウムの溶解度

 溶解度の値はいろいろな資料集などに載っていますが、その引用もとをたどると、日本化学会が編集し、丸善から出版されている、化学便覧に行きつくのではないでしょうか。化学便覧は基礎編と応用化学編があり、それぞれ2分冊構成です。

化学便覧基礎編の改訂4版では塩化ナトリウムの溶解度がこのようになっています。

温度θ01020253040506080100
溶解度w26.326.3126.3826.4326.226.6526.8327.0527.5428.2
改訂4版 化学便覧 基礎編Ⅱ

 でも、この数字、一部の教科書や資料集とと食い違っています。たとえば(平成24年版)のある会社の教科書では0℃で35.6、10℃で35.7、20℃で35.8、40℃で36.3、60℃で37.1、80℃で38.0、100℃で39.3です。これはどういうことでしょうか。

 じつは化学便覧改訂4版の溶解度の値は「飽和溶液100g中に含まれる無水物の質量/g」、つまり質量%で表されています。中学校の教科書での溶解度の定義とは異なっています。

おそらくこれは、化学便覧のような研究者が使う溶解度は、初めに飽和溶液ありきで、飽和溶液の濃度を知りたいということが多いのでしょう。これに対して小中学校などでは、食塩とホウ酸などがどれだけ溶けるかということを、質量パーセントのように、溶液の質量=水と溶質の合計の質量、を一定にして考えるよりは、水の質量を100gと一定にして食塩やホウ酸が何グラム溶けるかというスタンスの方がわかりりやすいので(また、そういう実験をすることを想定して)、このやり方で定義しているのでしょう。そしてそうすることによって、再結晶により何gの結晶が析出するか、というような計算が比較的簡単にできるようになったという副産物もできてしまいました。

 化学便覧型の溶解度(100gの飽和溶液に溶ける溶質の質量)wから教科書型の溶解度(100gの水に溶ける溶質の質量)H(以降、それぞれを溶解度w、溶解度Hと呼びます)に変換するには
H=w×100/(100-w)
 という式で求まります。これに先ほどの各温度での溶解度wの値を入れて溶解度Hの値を求めると、

温度θ01020253040506080100
溶解度H35.6935.7035.8335.9236.0536.3336.6737.0838.0139.28
改訂4版 化学便覧 基礎編Ⅱ をもとに 「理科とか苦手で」管理人が換算した。

 これなら教科書の値に一致します。

 ところが話はこれで終わりません。化学便覧基礎編は改訂5版が2004年に出ており、これが最新版なのです。(ちなみに改訂4版は1993年)

あらためて、化学便覧基礎編 改訂第5版(2004)を見ると、塩化ナトリウムの溶解度の値は次のようになっています。

温度θ01020253040506080100
溶解度m6.4266.4436.4706.4906.5106.5576.6146.6816.8417.035
化学便覧基礎編 改訂第5版 (2004) Ⅱ-p.149

えっ?6.426とかってまたえらく数字が違うじゃないですか、ということで調べてみたら、こちらの溶解度は質量モル濃度、つまり溶媒1kg中の溶質の物質量、になっていました。

ということは、化学便覧で示された質量モル濃度の溶解度mを、教科書型の溶解度H’に変換するには
H’=58.44m×100/1000
となります。58.44は塩化ナトリウムの式量です。

ということで、あらためて、溶媒100gにとける溶質の質量を計算すると、こうなりました。

温度θ01020253040506080100
溶解度H’37.55 37.6537.8137.9338.0438.3238.6539.0439.9841.11
化学便覧基礎編 改訂第5版 (2004) Ⅱ-p.149 をもとに 「理科とか苦手で」管理人が換算した。

これは第4版のデータをもとにしたときと、約2gの違いがあります。

 ちなみに中学校の教科書や資料集で、表ではなく溶解度曲線が載っていた場合、第4版をもとにしたデータなのか第5版をもとにしたデータなのか、少々気になるところです。見分け方のコツは80℃のとき。溶解度が40のところにあれば第5版のデータをもとにしています。第4版なら80℃で38ですから40を明らかに下回っています。


 とまぁ、この記事を旧ブログで公開したのが2014年07月11日。このとき、使われていた平成24年本の教科書を比べてみると、会社よって化学便覧基礎編の第4版をもとにしたデータのところと第5版をもとにしたデータのところがあったため書いた記事です。ただ、決して第4版をもとにした教科書会社が情報更新を怠った、というわけではなく、「理科年表」が第4版をもとにしたデータを掲載していたため、引用元が「化学便覧第5版」のところと「理科年表」のところでデータが食い違ってしまった、というわけです。ちなみに「化学便覧」は日本化学会編、「理科年表」は国立天文台編ですが、どちらも出版社は丸善です。

 ところで、2021年に化学便覧の第6版が刊行されました。そちらではどうなっているか確認したいところですが、本体価格 \45,000ということもあって、図書館様もなかなか手が出せないようです…。

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 途方に暮れていたら、化学書資料館というサイトをみつけました。化学便覧 基礎編 改訂6版とあって、検索したら「表9.5-5 水に対する単体及び無機化合物の溶解度の温度依存性」とか「表9.5-6 水に対する単体及び無機化合物の溶解度」とかあったので、これだこれだと見ようとしたら、

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ガーン。ただで見ようと思うなよ!ってことですね。世間は厳しい。サーセン。

コメント

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