1126 【運動の規則性3】運動の速さと向き(3) 作用・反作用の法則

えっ…指導要領的には「作用・反作用」をここにぶっこんでるんだ…ちょっと意外…

そうなんです。指導要領では作用反作用は (イ)運動の規則性 ●ア 運動の速さと向き で触れるように(内容の取扱い)で示されています。●ア 運動の速さと向きでは、主に運動を観察して分析していくところなので、「力」が出る幕ではない気もします。
解説で「その際、物体に働く力と物体が運動することに関連して、力は物体同士の相互作用であることに気づかせ、物体に力を加えると力が働き返されることを日常生活や社会の経験と関連付けて理解される。…」などとありますが、それは●イ 力と運動 のところに分類する方が自然な気がする…けどそうでもないか。(ア)の力のつり合いと合成・分解は「運動」を扱ってないからダメなんだろうな。きっと。
という個人的な感想はおいときますね。しっかりここに。

さて、スケートボードに乗っているものの止まっている人が壁を押したとします。するとどうなるでしょうか。

壁が壊れたらどんだけ薄い壁なんだ、ということになりますから。ふつうは壁の方は何も変化しません。
問題は人の方で、人が壁と反対方向に動きます。って、壁の方向に動いたらぶつかっちゃいますけどね。

ここで人が加えた力は、壁を押す力です。つまり明らかに力の矢印は右向きです。

ところが、人が動いたのは右向きではなく左向き、あれあれ?なのです。

課題:この人はなぜ左に動いたのか。

まず、どこがあれあれ?なのか指摘してみましょう。
「左向きの力なのに右向きに動いている」これはすぐ指摘できるでしょう。

でも、もう一つあれあれ?な点を指摘できるかどうかが運命の分かれ道。
人が壁を押したのに、力を受けた側の壁ではなく、力を出した側の人が動いたこと。

運動の様子が変わるのは力を受けた物体の話であって、力を出した物体についての話ではないのです。この指摘の意味がよくわからない人は「力を1から」の記事をもう一度見てください。

この2つのあれあれ?な点を説明するにはどうしたらよいのでしょうか。
まず、止まっていた人が動き出した、運動の様子が変わった以上、人は力を受けたはずなのです。その力は「人が壁を押す力」ではありません。
何かが人を押し、その力で止まっていた人は動いたのです。
では、何が?ここで登場している物体は2つしかありませんね。力を受けたとされる「人」と、もう一つ…。
そう、「壁」なんです。「壁が人を押した」、そんな力が存在したのです。

ここで、単なる物体で意志を持たない壁が、人から押されたタイミングにあわせて力を押し返す、というところに違和感というか「ほんまかいな?」と思うのは無理もありません。また、では人が壁を押した力はどうなったんだ(それが反射?したのではないか)と考える人もいるでしょう。

なので、人と壁ではなく、力学台車どうしで実験してみましょう。こちらをご覧ください。

力学台車Aが力学台車Bを押した。
力学台車Aが力学台車Bを押す(右向きの)力」によって、力学台車Bは右に動いた。
同時に、力学台車Aは左に動いた。
これは、力学台車Aを左に動いた力とは別の、「力学台車Bが力学台車Aを押す(左向きの)力」によるものです。
それぞれの動く方向が逆というところから、2つの力の向きは逆ですが、2つの力学台車が動いた距離が同じことから、大きさは同じことがわかります。そして見ての通り、2つの力は同一直線上にあるのです。

この「力学台車Aが力学台車Bを押す(右向きの)力」と「力学台車Bが力学台車Aを押す(左向きの)力」の関係を作用・反作用といいます。

物体Aから物体Bに力が働いているとき、物体Bから物体Aにも、逆向きで同じ大きさの力が必ず働きます。これが作用・反作用の法則です。

壁と人の例に戻ると、
課題:人が壁を右向きに押すことで、その反作用となる「壁が人を押す力」が左向きに働き、人が左に動いた。

これで、課題に対する答え(結論)がでました。これにて一件落着。

あとはさっきの動画を最初から見てみるとよいでしょう。

それから、作用・反作用はつり合いの2力と混同されがち。こちらの記事も見ておけばばっちりでしょう。

最後にネットでおなじみのニーチェの言葉を

おまえが深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。
Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.
フリードリヒ・ニーチェ 『善悪の彼岸』 Jenseits von Gut und Böse

参考文献
青野修 ・ 西郷敏 ・原田三男 ・柴 山修哉  作用反作用の法則 は誤解されている 物理教育第45巻第6号 (1997)
青野修 作用反作用の法則の誤解は解け始めた 物理教育第55巻第3号 (2007)

「作用反作用」と「つり合いの誤解」はここ10年で教育関係者の間でもだいぶメジャーな論点になってきました。本ブログだけでなく、ネット上に両者の違いが分かりやすく説明されているサイトや動画をよく見かけますし、さらには、教科書でも両者の違いを説明しているものもでてきました。関係者の努力の跡がうかがえます。

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