1391 マンボウの産む卵の数は3億個!?

セキツイ動物で、魚類-両生類-爬虫類-鳥類・哺乳類と一連の仲間わけがありますが、卵(子)を産む数について、魚類は多く、哺乳類に向かうにつれて少なくなる傾向がある、なんて話があります。

魚類は産んだ卵をほったらかしておくけど、とんでもなくたくさん産むからきっとどれかが生き残るだとという戦略、哺乳類は、産む数が少ない代わりに、大切に育てあげようという戦略ですね。これはもうどちらがいいか悪いかと、価値観で判断するような問題ではありません。強いて言えば、その種が絶滅しないで残っている以上、それぞれ正しい戦略なのだと思います。

そういう話をするようなときに、理科の資料集をみると、たいてい動物ごとの産卵数が表になっていて、魚類は何千、何万、それ以上になるのに、鳥類や哺乳類はほぼ一桁の値が書かれています。

で、動物ごとの産卵数の話題で忘れちゃいけないのが生徒を驚かせる要員であるマンボウ。その卵、約3億個といわれています。

ところが、この話は、たった一つの論文だけからの情報だといううわさを聞きました。

で、その論文を探してみたのですが、ネットでは1921年の論文という説と1951年の論文が怪しいです。

1921年とSchmidtという著者というところから突き止めてみると、
New Studies of Sun-fishes made during the “Dana” Expedition, 1920 Nature, 107, 76-79.
あの「ネイチャー」ですよ。あの。
記事ダウンロードするのに1800円もかかるのでここでストップです。でも、この論文を引用している別の論文もあるので、きっと書いてあるのだろうなと思います。

せっかくなので、1951年説も調べてみましょう。1921年を1951と誤った可能性も大きいのですが、1950年の論文を見つけました。
The ocean sunfish (Family Molidae). Bulletin of the British Museum Natural History Zoology v. 1 no. 6: 89-121.
こちらはFullTextがタダで読めます。
FullTextのなかで、millionで検索してください。
するとこんな文が見つかります。

THE OCEAN SUNFISHES {FAMILY MOLIDAE}
The scarcity of young specimens is remarkable when we consider that a female 4 ft, 6 in. long contained 300 million eggs. The mode and place of breeding have yet to be found.

和訳(意訳)してみましょう。

マンボウ(マンボウ科)
4フィート6インチ(約137cm)の長さのメスが3億個の卵をもっていたことを考察するには、若い標本がまだまだ足りない。繁殖させる方法や場所がまだ見つかっていない。

3億という情報はあるものの、マンボウの生態がよくわかっておらず研究が進んでいないということですね。ああそうか、だからネットで「マンボウ最弱伝説」みたいなガセネタがはびこるんだなと妙に納得。1950年の段階でそうですから、1921年の研究で、マンボウから3億個あったことがわかったとしても、サンプル数は少なさそう、ひょっとすると、一頭のマンボウの卵を数えたらそのマンボウでは3億個だった、という話かもしれません。

ということで、マンボウの卵の数は、よく言われている3億という数字が一つの論文だけで、信ぴょう性としてグレーな部分を感じさせる部分があります。それが、3億個という数のインパクトもあってあちこちに話のネタになり資料集に掲載されたり理科の授業で話されていたりするのかもしれません。


この話で思い出したのが、一つの論文を誤解して活用されまくっている完全なクロの例である「メラビアンの法則」についてです。
研修やセミナーなどで講師の先生がドヤ顔で誤解されているこの法則の説明をするたび、私は複雑な気持ちになってしまうのですよ。しかも、それを隣の受講者が真面目に聞いて、言葉の意味や話す内容が7%…などと、パーセンテージまでメモしていたりすると、もういたたまれない気持ちになってしまいます。┐(‘~`;)┌
この誤解についてはあちこちで語られている()のですがね。

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