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1427 中学生でもわかる 小林・益川理論

2008年にノーベル物理学賞を受賞した、小林誠先生、益川敏英先生。受賞理由は「クォークが自然界に少なくとも三世代以上ある事を予言する、CP対称性の破れの起源の発見(小林・益川理論)」ということです。

無謀にも、この小林・益川理論がだいたいどんなものなのかを中学生にもわかるように解説してみます。

とはいえ、無謀な企画ですし、専門家に内容を確認してもらっているわけではないので、もしかしたら、ニュアンスが違う部分や、厳密な正確さに欠ける部分があるかもしれません。また、それとは別に私自身が誤解しているところもあるかもしれません。さらに、難しい部分(それこそが小林・益川理論の核心なのですが)は、さりげなく避けて通っています。その点は事前にお断りしておきます。

ことは、137億年前のビッグバンから始まります。ビッグバンとは、高温度・高密度状態にあった、宇宙の初期状態、またはこの状態からの爆発的膨張をさします。

これに関して、現代物理学の大きな謎があります。

ビッグバンのときには、正確に同じ数の粒子と反粒子※があったはずです。それなのに宇宙に物質(粒子)ばかりが見つかり、反物質(反粒子)はほとんど観測されていません。これはどうしてなのか。
※「反粒子」とは、粒子と質量などの性質は同じで+-の電荷だけが違う、粒子の「相棒」のことです。たとえば、粒子である電子と同じ質量で、+の電気をもつ「陽電子」は反粒子です。また、粒子である陽子と同じ質量で、-の電気をもつ「反陽子」も反粒子です。

粒子と反粒子は出会うと反応してどちらもなくなり、エネルギーだけになってしまいます。これが対消滅です。また、これとは逆に、高いエネルギーがあると、粒子と反粒子ができます。これが対生成ですが、ビッグバンから時間が経ち、宇宙が膨張して密度が小さくなると、対消滅はできても、対生成がほとんどできなくなります。

ということは、同じ数の粒子も反粒子が対消滅して、あとには何も残りません(エネルギーは別ですが)。そうすると私たちはもちろん、宇宙自体が存在しないはずです。しかし、現実はご覧の通りです。

すなわち、この謎を解くことは「宇宙やわれわれがなぜ存在しうるか」、すなわちわれわれの根源に迫ることなのです。そこに、工学や農学のような実用的な分野ではない、この研究の意義があります。

ところで、ソ連にアンドレイ・サハロフ(1921-1989)という理論物理学者がいました。

彼も1975年にノーベル賞をとっています。といっても、物理学賞ではなく、平和賞です。というのも水爆の開発に携わり、「ソ連水爆の父」と呼ばれたこともあったのですが、後に目覚めてしまい、自由とか人権とか平和とか、そっち方面に走っていったのですね。平和賞受賞後は、あのペレストロイカにも一枚かんでいるそうです。

さて、そのサハロフですが、例の謎を解くために、次のような仮説を立てました。

ビッグバンのときはたしかに粒子と反粒子は同数だったが、その後にズレた。

そして、その仮説が成り立つための3つの条件を提示しました。その一つが「CP対称性の破れ」です。

で、そのCP対称性の破れとは何なのか。

まず、「対称」から攻めていきましょう。「対称」といって中学生レベルで思い出すのは、数学で学ぶ点対称とか線対称ですね。Sの文字のような点対称は、中心を固定してグルッとひっくり返しても形は変わりません。また、Aの文字のような線対称は、鏡に映して左右をひっくり返しても形は変わりません。「対称」とは簡単に言うと「ひっくり返しても変わらない」、別の感覚的な言い方をすれば「バランスがとれている」ということです。ただし、どうひっくり返すか、どこのバランスがとれているのかは、いろいろなパターンがあります。

「CP対称性」の「C」「P」は、それぞれどのようにひっくり返すか、ひっくり返し方の種類の一つだと思ってください。あるいは、CPという視点でバランスが取れているかどうかを考えていると言ってもいいでしょう。CPはCとPの合わせ技です。

「C対称」というのは粒子と反粒子をひっくり返して粒子にすることです。そうしても、世界(法則性)は変わらないなら「C対称性をもつ」ということになり、もしそうでなければ「C対称性の破れ」ということになります。バランスで説明するならば、粒子と反粒子が同じ数ならばC対称性をもっており、実際の宇宙のように粒子の方に偏っている状態は、C対称性が破れていることになります。

「P対称」とは、粒子(反粒子でもいいですが)が自転しているときの回転方向のバランスが取れていることをさします。右回りの粒子と左回りの粒子が同じ量あれば「P対称性が保たれている」のです。

そして、こういう対称性は、対称性の保存が物理学のお約束っぽいのに、なんとCP対称性の破れが実験で確認されました。

1964年、FitchとCronin(苦労人!?)が中性K中間子が崩壊するときに、CP対称性が破れていることを見つけたのです。「中性K中間子」とは何だ?という疑問はごもっともですが、そこはわからなくても全体像を見るには大丈夫なので流します。ここでは、「CP対称性の破れが現実にあることが確認された」というところをおさえていれば十分です。

CP対称性の破れが現実に起こった。それをどう説明するか。それを考えていくと、

CP対称性の破れが起こるには、クオークが少なくとも6種類必要である!

ということになりました。なんでそうなるかはわけわからない数式の果てに出てきますから、当然ここでは省略しますが、これが小林・益川理論の核心となる部分です。

これの何がすごいかというと、当時クオークは3種類しか発見されていなかったのです。4種類、という考え方もあったみたいですが、そもそもクオークの存在自体を疑う向きもありましたから、6種類というのは多くの人々(というか本人たち以外はみんな?)にとって想定の範囲外のアイデアなのです。例えるならば、ジャンケンするときに、グーでもパーでもチョキでもない、変な形を指で作り、「これはグーにもパーにもチョキにも勝つやつね」とマイルールを言い放つようなものです。そりゃ周りはビックリ唖然、って感じですね。

そして、実際に未発見の3種類のクオークが発見され、また、小林・益川理論からCP対称性の破れがB中間子と反B中間子が崩壊するときにも起こる、ということが予測され、その実験はとてつもなく大きい装置を使って行うのですが、たしかに証明されたのです。それは同時に小林・益川理論の正しさを証明するものでもあります。

なるほどなるほど。ところで、そもそもクオークってなんでしょうか?

よく、中学校の理科あたりでは原子を「物質を構成する最小の粒」とか呼んでいますが、この原子は原子核と電子から構成されます。このうち原子核は、陽子と中性子が集まって構成されています。で、例えば陽子は3つのクオークという素粒子から構成されています。

素粒子とは内部構造を持っていない(さらに小さい粒子で構成されているのではない)粒子のことをさします。例えば、陽子は3つのクオークで構成されているので、陽子は素粒子ではないことになります。

で、素粒子には、クオークとレプトンという2つのグループに分けられます。ちなみに電子はレプトンの仲間です。

ダウンクオークとトップクオーク(当時未発見)、アップクオークとボトムクオーク(当時未発見)という未発見のクオークを含めた組み合わせで反応すると、CP対称性が破れると考えられたのです。

ということで、小林・益川理論において、CP対称性の破れの理由が一つ証明できた、ということになりますが、この程度の原因で起こるCP対称性の破れでは、実は現在の宇宙の物質優勢を説明するには、量的に不十分と考えられています。すなわち、CP対称性の破れを起こす別の原因がありそうです。

ということで、まだまだ謎は残っています。
その謎を解くのはもしかしたら、これを読んでいるあなたかもしれません。

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