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0707 ジエチルエーテル

ジエチルエーテル C2H5OC2H5 Mw=74.12 CAS No.60-29-7

 ジエチルエーテルは、エチルエーテルや硫酸エーテルといった別名もあります。なぜ「硫酸」なのかというと、ジエチルエーテルは、エタノールを硫酸を触媒にして脱水縮合で作ることができるからですね。IUPAC名ではエトキシエタン。そして、ただエーテルというときはジエチルエーテルを指している場合があります。まあ、ジメチルエーテルは気体だから実験室で有機溶媒などに使われることはないし、DMEというなんかカッコイイ略称があるしね。

 用途としては有機合成の原料、有機溶媒、燃料などがあげられます。昔はエタノールの代わりに飲用されていたこともあったそうです。そして吸入麻酔薬としても使われてますね。中学理科でもカエルの解剖なんかをする場合は、麻酔に使うことでしょう。
 で、うちの理科室にもジエチルエーテルがあります。退職した先生がカエルの解剖とかをたまにやっていたので、この手の薬品がしこたまあるのです。

危険性

 ところがだ、ジエチルエーテルは危険物第4類(引火性液体)の中でも、一番ヤバいとされる特殊引火物の仲間に分類されます。
 そのヤバさの理由、その1として、大気中の酸素や直射日光により酸化されて、加熱・衝撃・摩擦で爆発しかねない過酸化物であるジエチルエーテルペルオキシド (Diethyl ether peroxides) が生成することがあげられます。
 そのため、ジエチルエーテルの入った古い容器を開ける場合、フタを回すときの摩擦熱で過酸化物が反応し容器ごと爆発する危険性さえあるのです。こえーわ。
 この対策には、抗酸化剤として、ジブチルヒドロキシトルエン (BHT) が微量添加します。BHTは、過酸化物形成に必要とされるフリーラジカルを除去するので、リスクが低減できます。
 また、安全のために開封して一定期間経過したジエチルエーテルは廃棄するよう指導している大学もあるようです。
 なので、うちの理科室にあるジエチルエーテルのビンも開封済みのままずっとあるので怖いから今度の廃液回収のときに持ってってもらおうと思います。
 ちなみにジエチルエーテルを保管する容器は何でもいいというわけではなく、ガラスや金属缶(鉄)などの容器を使います。
 マルツオンライン提供のゴム・プラスチック類の耐薬品性一覧表によると、ジエチルエーテルの容器として◎:全くあるいはほとんど影響が無いとされているものはなく、○:若干の影響は有るが条件により十分使えるとされているのがナイロンとテフロン樹脂。アクリル樹脂など多くのプラスチック、ゴムは侵されてしまうのです。
 国産化学のSDSを見ると、「ハロゲン、ハロゲン化合物、イオウ化合物、酸化剤と激しく反応し、火災や爆発の危険をもたらす。」とあるけど、テフロン樹脂は大丈夫なのかな。

 なので、うちの理科室にあるジエチルエーテルを持ってってもらうとき、500mL試薬瓶のまま出すと、1本ずつ管理票を作るらしく、処分費がすごく高くなります。
 そこで、不要なジエチルエーテルを全部20Lの廃液タンクに入れ、有機溶媒として出して処分費用が安く済んだ、という夢を見たのですが、ガラス瓶からポリタンに入れるときに蒸気を吸って健康を害し、ポリタンクが侵され、空気と触れて過酸化物ができて爆発するところで目が覚めました。ええ、もちろん試薬瓶に入ったまま出しますとも。まだ死にたくないし。

 ヤバさの理由、その2として、引火点の異常な低さです。だってー45℃ですよ。ガソリンの-40℃をさらに下回り、バナナで釘が打てるー40℃でも引火の可能性があるわけです。
 ちなみに、沸点も35℃と極めて低いため、冷暗所に保管しなくてはなりません。ジエチルエーテルの夏の暑い日に直射日光の当たるところに置いたら…。でも、この沸点の低さは、有機合成なんかで使うときに、用が済んだらちょっと温度を上げるだけで簡単にサヨナラ!という使われ方があります。

 やばさの理由、その3として、絶縁性の液体(電気の不導体)であるため、静電気が発生しやすいという点があります。静電気が発生するということは、そこからインカ帝国の可能性があります。ただ、絶縁性でかつ引火性の液体は他にもあるし、ジエチルエーテルよりももっと静電気が発生しやすいものもあるため、ヤバさの理由、その1、その2にくらべ、弱い気がしてきました。。。(感覚がマヒしている)

 あと、燃焼範囲も広い(1.9〜36vol%)のですが、こちらも二硫化炭素CSの1.0 ~ 50vol%という上には上がいるし、アセトアルデヒド(4.0 ~ 60vol%)や軽油(1.0 ~ 6.0vol%)、ガソリン(1.4 ~ 7.6vol%)のように片方ならジエチルエーテルよりすごいやつがいてもはや、やばさの理由、その4にしなくてもいいかな、というくらいです。(さらに感覚がマヒしている)

有害性

 ジエチルエーテルは引火などの危険性があるだけでなく、人体への有害性もあります。
 厚生労働省の職場のあんぜんサイトによれば

 吸入:咳、咽頭痛、し眠、嘔吐、頭痛、息苦しさ、意識喪失
 皮膚:皮膚の乾燥
 眼:充血、痛み
 経口摂取:めまい、し眠、嘔吐

 と、ちっとも安全じゃありません。よくある自治体の安心メールみたいなのに登録すると、不審者情報などが多数配信されて、それを読むとかえって不安になるのと似ています。
 実際、私も薬品の整理をしているときに、ジエチルエーテルを吸い込んでしまい、咳と咽頭痛と頭痛に見舞われたことがあります。今、「咳と咽頭痛と頭痛がある」なんて言ったらコロナを疑われてしまいますね。

 ジエチルエーテルは、実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説において、推奨されない麻酔薬としてやり玉に挙がっています。

④ ジエチルエーテル
 ジエチルエーテルは、引火性及び爆発性があり、労働安全衛生上極めて危険である。動物に対して気道刺激性が強く、流涎や気管分泌液の増加、喉頭痙攣等の副作用がある。医薬品として販売されておらず、倫理的観点からも推奨されない。また、動物の死体を保管したり、袋に入れて焼却処分する際に爆発するおそれがあることから、安楽死処置の目的でも使用することはできない。環境省 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説 128ページ)

 ジエチルエーテルが飲用されたと前述しましたが、経口毒性はエタノールの数倍であり、ヒトにおける最小致死量は260mg/kgです。

その他の性質

 その他、ジエチルエーテルで押さえておきたいところとしては、特有の臭気、蒸気の密度は空気より大きいけど、液体の密度は水より、というか第4類の危険物の中では最も小さいです。
 エタ ノ ール , ベンゼン、クロロホルムには極めて溶けやすいですが、水の溶解度は6.04×104 mg/L (25℃) (HSDB (2017))、中学理科っぽく言うと、100gの水に約6g溶けるので、溶けないとはいえないものの、「溶ける」といういのも微妙な量ですね。

 今度の廃液回収はいつだろう。

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