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0162 【エネルギーと物質10】様々な物質とその利用(4) 石鹸や合成洗剤の性質

石鹸と合成洗剤の歴史

 汚れを落とす洗剤も、様々な物質が幅広く利用されています。油脂と灰という自然の物質から作られる石鹸を使っていた時代から、石鹸に加えて、人工的に作られた物質でできている合成洗剤を使う時代に代わってきました。
 もう少し詳しく調べると、石鹸の起源は今から5000年前にもさかのぼり、日本では安土桃山時代に渡来し庶民に普及したのは明治時代ということがわかります。一方、合成洗剤は19世紀の第一次世界大戦のさなかにドイツで開発され、日本で製造・販売されたのは昭和に入ってからです。

 とはいえ、中学生にとっては、というか私さえも、石鹸も合成洗剤も物心ついた時から両方あったため、石鹸が古い、合成洗剤が新しい、という感覚は薄いかもしれませんね。

【実験】石鹸・合成洗剤の軟水・硬水での泡立ち方

石鹸と合成洗剤の性質の違いを、簡単な実験で調べてみましょう。

硬水の泡立ち

 自然の水は、精製水と違ってカルシウムやマグネシウムなどのミネラルが含まれています。細かい定義はありますが、このカルシウムやマグネシウムが多く含まれる水が硬水です。日本の水はカルシウムやマグネシウムが少ない軟水が多く、ヨーロッパや北米では硬水が多いといわれています。

 軟水(水道水)、硬水(1%塩化マグネシウム水溶液)に石鹸や合成洗剤を加えてみましょう。

塩化マグネシウム
 MgCl2 Mw=95.21 CAS No.7786-30-3

 にがり。
 潮解性が強く、水に溶かすと溶解熱で発熱する。


塩化マグネシウムを溶かす前と溶かした後の温度


 塩化マグネシウム水溶液を水酸化ナトリウムなどでアルカリ性にすると水酸化マグネシウムを沈殿生成する


 用途:豆腐凝固剤、道路凍結防止剤、緩下剤、皮膚疾患の薬など

石鹸の場合

 2本の太めの試験管に、左は軟水、右は硬水を20mL入れ、そこに石鹸水を1mLずつ加えて、ゴム栓をしてシャカシャカ振って泡立ち方を調べてみました。

硬水は軟水に比べ、泡立ちがありませんでした。

合成洗剤の場合

同じ実験を石鹸に代えて合成洗剤でやってみました。

泡立ちに差はみられませんでした。

考察

 石鹸は硬水での泡立ちがあまりないが、合成洗剤では軟水同様の泡立ちがあった。

実験のふりかえり・何を比較するか?

 この実験の目的は、石鹸と合成洗剤で軟水と硬水の泡立ち方の違いを比べることでしたが、ここまでの実験は石鹸の硬水と軟水での泡立ち方の違い、合成洗剤の硬水と軟水での泡立ち方の違いを見てきました。
 では、石鹸と合成洗剤での硬水の泡立ち方の違いを比較するやり方はどうでしょうか。このやり方でも、合成洗剤に比べて石鹸の泡立ちがないことを示せそうですね。

 ただ、このやり方では、石鹸の量と合成洗剤の量をどう設定するかが問題となります。同じ質量でいいのでしょうか。そうするともともと合成洗剤の方が泡立つという可能性もありますから、この実験っだけでは石鹸×硬水で泡立たないと結論付けるのには抵抗があります。
 石鹸×軟水、合成洗剤×軟水で同じくらいの泡立ちがあるのを確認したうえで、石鹸×硬水と合成洗剤×硬水の比較をし、「あれ、石鹸が泡立たない」となるのが本筋ですね。
 もちろん4本いっぺんにやることもできますが、何と何を比較するためにどうそろえるか、というのは結構考えなくてはいけないところですし、同じくらい泡立つように石鹸と合成洗剤の量を調整するのもかなりの試行錯誤を要します。

【実験】石鹸・合成洗剤の水溶液の性質

 石鹸と合成洗剤が何性か、フェノールフタレインを使って調べてみましょう。

ご覧の通り、石鹸は赤くなりましたからアルカリ性です。合成洗剤は色は変化しませんでした。今回使った合成洗剤は中性のものでした。

石鹸と合成洗剤はどんな物質か

 以上のような実験結果がどうして起こるのか、これは石鹸と合成洗剤がどのような物質か、ということを知る必要があります。このあたりの知識は、もはや高校化学の範疇ですが紹介しておきましょう。
 次の図は、石鹸と合成洗剤の分子構造の例です。マッチ棒のようになっていますが、軸の部分は疎水基といって、油になじむ(水となじまない)部分、頭の部分は親水基といって水になじむ部分です。一つの分子に疎水基と親水基があることによって、仲の悪いたとえでもある「水と油」の関係をとりもってくれるのです。このような物質を界面活性剤といいます。

石鹸

 上のマッチ棒みたいなのが石鹸の分子です。
 炭素(C)の原子が鎖状につながっていてその鎖の片方の端に(-COOH)と呼ばれる構造を持っている物質を脂肪酸といいます。「生物の体のつくりと働き」で脂肪が消化されると脂肪酸とモノグリセリドになることを学びましたが、あの脂肪酸です。CH3CH2CH2…COOHとCが12個ある脂肪酸が、ラウリン酸と呼ばれる脂肪酸の一種です。
 ただ、よく見てみると、親水基の部分がCOOHではなく、COONaとなっています。これはラウリン酸と水酸化ナトリウムが中和してできるラウリン酸ナトリウム塩です。
 脂肪酸のCOOHの部分はカルボキシ基と呼ばれ、ギ酸HCOOHや酢酸CH3COOHからわかるように、その水溶液は酸性になります。ただし、塩酸や硫酸ほど強くない「弱酸」です。対する水酸化ナトリウムは問答無用の強い塩基(高校ではアルカリを含め、酸と対になってはたらく物質を「塩基」と呼んでいます)ですから、中和してできる塩も、酸より塩基の影響が強いため、水溶液は塩基性(アルカリ性)になり、フェノールフタレイン溶液を赤くします。

 この写真で左は合成洗剤×硬水、右が石鹸×硬水です。石鹸は硬水では泡立たないだけでなく、よく見るとなんか白っぽいものができています。これは金属石鹸とか石鹸カスとか言われて忌み嫌われています。どういうことでしょうか。

 これは、弱酸・強塩基の塩である石鹸は加水分解が起き、ナトリウム塩である石鹸RーCOONaから、脂肪酸R-COOHに戻ってしまいます。さらに、その脂肪酸とCa2+やMg2+などの金属イオンが結びついて、金属石鹸(脂肪酸カルシウムや脂肪酸マグネシウムなど)をつくってしまうのです。こうするとせっかくの親水基を金属イオンが離してくれないので水に溶けず、そして泡立ちもせず、洗浄力もなくなってしまいます。そのくせ、疎水基は元気なので、疎水性の表面をもつプラスチックなどに付着しやすい、つまり洗面器とかお風呂のイスなどにこびりついてなかなか落ちないという、どこまで性質たちが悪いんだ、泡立ちも悪いけど、という物質です。ただ、酸には弱い(とけてしまう)ので、石鹸カスがついたプラスチック製品はクエン酸などで洗うとよいでしょう。

イラストは下からダウンロードできます。パワポファイルなので書き換え可能です。

合成洗剤

 これに対して合成洗剤は、親水基の部分がOSO3Na となっています。OSO3では並びが悪いので気づかないかもしれませんが、SO4、キャー!硫酸です。石鹸のときと違って強い酸なのです。一方、塩基側は同じく水酸化ナトリウム。強酸と強塩基、どちらも譲らずできる塩は中性となります。だからフェノールフタレインの色が変化しなかったわけですね。
 また、強酸と強塩基の場合は加水分解が起きず、カルシウムイオンやマグネシウムイオンが付け入る隙を与えないので、石鹸とは違い金属石鹸のようにはなりません。

Check it out!

中曽根 弓夫 「石鹸・合成洗剤の技術発展の系統化調査」国立科学博物館技術の系統化調査報告 Vol.9 2007.March

戦後「せんたく洗剤の歴史」 粉末からジェルボール、容器の変遷 | となりのカインズさん
これはこれで技術の進化の一例ともいえます。ある年齢以上の人は身をもって感じた人もいるはず。

大矢 勝「洗剤論争に関する 歴史的考察」横浜国立大学教育人間科学部紀要. III, 社会科学 1 1-19, 1998-11

硬度とは – 水問屋
 硬度の計算式は他のサイトでも説明は見られますが、理化学事典に掲載されている定義や、分子量を示しての硬度計算式を提示するあたり、自分と同じ匂いがしますw

金属石鹸とは
 硬水に含まれるカルシウムやマグネシウムが石鹸成分の脂肪酸イオンと結びついてできる金属石鹸(石鹸かす、スカム)。クエン酸などを加えて水溶液が酸性になれば溶けることにも触れてくれているけど、よく考えたらそのとき石鹸としての機能は(以下略

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